
『50歳からのおしゃれは3色で』という本を出版します。
今日は、この本を書くことになったきっかけや、本に込めた思いを、
少しお話ししてみようと思います。
担当編集の大塚さんとは、以前から雑誌『ナチュリラ』やウェブの企画でご一緒していました。
「いつか本という形で、一緒に何か作れたらいいですね」。そんな話もしていたのですが、
東京での毎日は忙しく、子どももまだ小さくて。いつか、いつかと思いながら、
なかなか実現できなくて。

その「いつか」が動き始めたのは、息子の小学校卒業を機に、以前から考えていた親子留学に挑戦
したことがきっかけでした。
東京とカナダのバンクーバーを行ったり来たりする生活も、気づけば一年半ほど。最初は文化やル
ールの違いに驚くことばかりで、生活に慣れるだけで精いっぱいでした。でも、少し落ち着いてく
ると、おしゃれについても、あらためて考えるようになったんです。
東京にいた頃の私は、自分を表現するために、そして誰かに見せるために服を着ていたところがあ
ったと思います。
こちらで暮らしていると、服を選ぶ基準が、もっと自分の内側にあるように感じます。
自分が心地いいか。今日の生活に必要か。
そんなことが、服選びの真ん中にある。



雨の季節があり、家を出ればすぐ近くに自然があるバンクーバーでは、機能的な服や小物が日常に溶け
込んでいます。ワンピースにトレッキングスニーカーを合わせたり、雨の日にも履けるサイドゴアブー
ツが人気だったり。キャップやサングラスも、暮らしの中で必要だから身につけている。
その装いが、私にはとても自然に見えました。
服はシンプルだけれど、どこかに色を効かせていたり、一つの色の濃淡でまとめていたり。そんな着こ
なしを見かけるのも楽しくて。
東京にいた頃より、一つのことにゆっくり向き合える時間ができたこともあり、「今、私がおしゃれに
ついて考えていることを、何か書いてみたいな」と思うようになりました。そうして、ようやく大塚さ
んと本を作ることができたんです。


私はもともと、色数を絞ったコーディネートが好きです。ワントーン、ツートーン、多くても3色
くらい。
なぜだろうと考えてみると、好きな服がカジュアルだから、というのが大きい気がします。カジュ
アルな服にたくさんの色を使うと、元気な印象が強くなって、時には少し子どもっぽく見えること
もある。そこで色数を絞ると、同じ服でもぐっと大人っぽく、上品にまとまります。
好きなカジュアルを、これからも心地よく着ていたい。そのために、私が長年のスタイリングで大
切にしてきたのが、色を絞るという方法でした。


ただ、「3色」というタイトルですが、カラフルな配色がたくさん登場する本ではありません。私自身
のクローゼットにも、鮮やかな色の服はそれほど多くなくて。本もベーシックカラーを中心に、そこに
合わせやすい差し色を少し添えるような内容になっています。
おしゃれの相談を受けていると、「地味になるのが怖い」「シンプルが似合わなくなった」という声を
聞くことがあります。「もっと派手な色やデザインを選んだほうがいいですか?」と聞かれることも。
でも、無理に着なくてもいいんじゃないかな、と私は思うんです。
フランス語に、好きな言葉があります。「シック(chic)」。洗練されていて、上品でセンスがい
い、という意味です。シンプルな服や落ち着いた色の組み合わせにも、そんな魅力があります。ベーシ
ックカラーだけでも、素敵なコーディネートは作れるんです。


これから長く着られるものを賢く選ぼうとすると、シンプルなデザインやベーシックカラーが軸になることも多いと思います。だからこそ、それを自分らしく、楽しく着る方法をお伝えしたかった。
もちろん、色には、気持ちを元気にしたり、穏やかにしたりする力もあると思っています。
だから、私も少しずつ挑戦していきたい。
もっと年を重ねたら、ビビッドな色を思いきり楽しんでみたい!
でも今の私は、まず「ベーシックカラー上手」になりたいんです。
今回の本には、留学中に大学のプログラムで学んだ色彩心理学も生かしています。
長年のスタイリングで大切にしてきたことに、色合わせの新しい視点が加わりました。
これまで感覚で選んでいた組み合わせを見つめ直すことができ、仕事の幅も少し広がったように感じています。

そして、もう一つ大切にしたのが、「50歳から」という節目です。
40歳になる前にも、『38歳から着たい服 本当に似合うものだけ少量持つ』という本を書きました。
でも、40歳には40歳の悩みがあり、50歳には50歳の悩みがある。私自身、50歳まではもう少し
ありますが、その変化を日々感じています。
体も心も、以前と同じではない。スタイリストの私だって、「今日はもう、どうでもいいや」と思う日があります。
おしゃれはしたい。でも、そのための意欲が湧かない。
楽しく暮らしたいと思っているのに、どうしても元気が出ない日があります。
年齢による変化をどう受け止めるかは、服選びだけでなく、生き方にもつながっている気がします。
服が好きで、この仕事を続けてきた私としては、その服が悩みの種になったり、毎朝のコーディネートが煩わしいものになったりするのは、やっぱり少し寂しい。
もっと簡単に、楽しくできる方法を届けたい。その思いは、大塚さんも同じでした。
この本には、配色のアイデアやコーディネートの方法を詰め込みました。
でも、それを読んで、服のことだけでなく、気持ちのもっと根っこの部分から、少し元気になってもらえたらうれしいなと思っています。
明日が少し楽しみになるとか、今の自分にもできそうなことが見つかるとか。
そんな小さな気持ちが、きっと「おしゃれしたい」につながっていくと思うから。
おしゃれは、一番じゃなくてもいいんです。四、五番手くらいでも。
少し元気になったから、今日は好きな服を着てみようかな。
好きな服を着たから、さらに元気になった!
この本が、そんな気持ちになるきっかけになれたら、うれしいです。